トピックス

ジビエとSDGs、都市と地方を考える「大丸有SDGs ACT5」

2021年11月22日

 10月12日に開催された「Sustable」は、大企業または都市部が取り組むべきサステナブルや持続可能性の課題に対し、ひとつの解を提示するようなものであったかもしれません。参加者や運営者たちの言葉から、新しい可能性を感じることができる、貴重な経験となりました。

 11月22日からは、新丸ビルの「丸の内ハウス」で、「ジビエを食べて地域と繋がる『ジビエフェア』 ~美味しいからSDGsへ~」も開催されます。ACT5のサイトでもレポートが掲載されています。以下の文章も参考に、美味しくジビエをお召し上がりください。

「大丸有×SDGs ACT5」、「Sustable」とは

 ACT5は、東京、大手町・丸の内・有楽町エリアで開催される「SDGs」をテーマにしたイベントで、正式名称は「大丸有 SDGs ACT5」。三菱地所、農林中央金庫など、このエリアに地盤を持つ企業が中心となって取り組んでいます。

 狙いはSDGsへの最初の一歩を踏み出すきっかけを作ること。SDGsが盛んに取り沙汰されるようにはなったものの、実際に活動している人は決して多くありません。最初の何らかのアクションを起こすきっかけを都市部から作ろうとしています。

 そのため「気候変動と資源循環」「ウェルビーイング」「ダイバーシティ&インクルージョン」「コミュニケーション」など、5つのテーマを掲げ、大丸有でさまざまな啓発的・行動喚起的なイベントを展開しており、ジビエは、その“ACT1”に掲げられた「サステナブルフード」のプログラムのひとつとして取り上げられました。

 それがイベント「Sustable(サステーブル)~未来を変えるひとくち~」です。実際に何かを食べながら生産者や有識者から現地の課題を聞くという趣向で、海の生態系保全、漁業認証制度、新しい食文化など、さまざまなテーマで全6回を開催。キッチン併設の会場で、食べるだけでなく、実際にシェフが作るさまを見て、生産者たちのトークも聞けるという趣向です。

生産者が語る地方の現状

 講演では藤木がジビエ振興の背景となった鳥獣被害や地方の現状を概観するとともに、ジビエの衛生面や国産ジビエ認証についてお話しさせていただいた後、垣内さんから、京丹波で取り組まれている活動についてお話がありました。「今日も朝5時30分からワナの見回りをして、4頭捕獲して処理してから東京に出てきた」と垣内さん。33年前、「田舎暮らし」という言葉もなかった時代に都市部から移住し、本格的に狩猟に取り組むように。地方の人口減少や高齢化、鳥獣被害の問題解決の一助としてジビエを商品化し、販売するようになりました。ジビエ振興が本格化するその前から取り組んでいる第一人者として知られており、農林水産省の各種委員なども務めています。

 トークセッションでは、海外のジビエ事情と日本との比較、衛生面の問題や、地方の深刻な現状など、さまざまな話題について話し合いました。

 その間、参加者には順次ジビエ料理が提供されました。この日は簡単なコース仕立てで、オードブルに「鹿肉のテリーヌ フレンチマスタード添え」「鹿肉のからあげ」、メインに「鹿肉としめじのトマトシチュー」「鹿肉のポワレ」、そして締めのデザートにも「鹿スネ肉とバナナのタルト」と、最初から最後までジビエ尽くし。もちろん、鹿肉は垣内さんご提供の京丹波産。垣内さんが捌く肉は、卓越した処理や保存の技術のため、驚くほど味が濃く、柔らかいという特徴があります。ジビエを食べたことのある人も、初めて食べるという人も、皆一様にその美味しさに驚いていました。

参加者の関心の高さが伺われたセッション

 このSustableで特徴的だったのは、参加者との交流であったかもしれません。トークセッションの後の質疑応答では、多くの方が質問に立ち、終了後には、垣内さん、藤木のもとに立ち寄って、長くお話しされる方の姿も多く見られました。

 質疑応答である参加者は、「ジビエを食べることに罪悪感があったが、それが払拭された」と話しています。

「野生の動物を食べるのがかわいそうというか、食べちゃいけないという思いがあったのであまり食べなかったのですが、環境配慮や地域振興の観点から見ても食べたほうが良いということがよく分かりました。また、環境配慮の観点から家畜を食べないという人もいるのですが、そういう人にも食べてもらえると思います」

 食事中の講演であったにも関わらず、テーブルにノートを広げ熱心にメモを取る参加者の姿も。

「“ジビエ”のことは知らなくて、地方活性化の勉強のために参加したのですが、ジビエを知って、なるほど、と思ったところ。知り合いにビーガンが多いのですが、“ベターミート”という意味でジビエを食べることができるというお話もあって、可能性を感じることができました」

 料理人の参加者もありました。

「とても刺激を受けたイベント。食を通じて、自分たちにできることが多いことが分かりました。料理人が地方の課題解決に協力するなんて昔は考えられなかった。時代、環境が変わったという感があります。昔扱ったジビエは臭かったですが、今は臭いもなく固くもない。認証を取得したジビエをちゃんとしたルートで仕入れることが必要だと分かりました」

 ジビエを単に「美味しいもの」と捉えるだけでなく、「地域課題解決」に直結するものと捉え、個人の行動に結びつけていくあたりは、ACT5の狙い通りでもありますし、それだけ参加者の皆さんの感受性が強いことも感じさせました。

主催者の眼から見て……

 会場となった「MY Shokudo Hall&Kitchen」(TOKYO TORCH 常盤橋タワー3F)の運営およびSustableにも企画・運営に携わっている株式会社NINO代表取締役・二宮敏さんは、今回の参加者の反応が非常に良かったと話しています。二宮さんはトークセッションでファシリテーターも務めました。

「参加申込が埋まるのも早かったし、リアクションもとても大きかったように思います。本気で考える人達が集まって意見知識をぶつけ合うと、熱が生まれ、次のアクションにつながります。生産者、調理する人、消費者・食べる人が一堂に会する場が重要だと再認識しました。今回は、参加者から『知らなかった』という声が聞かれましたが、それは逆に『知りたい』という思いの裏返しであることもひしひしと感じたところです。また、地域の問題が可視化されるとともに、生産者や作り手のプライドも可視化された。ジビエはツールとしても非常に効果があるとも感じました」

 運営にあたっている三菱地所の長井頼宏さんは、ACT5を強力なリーダーシップで牽引しており、ジビエにも強い思いを寄せてくれる協会にとっても大切な“恩人”です。

「聞き入ったりうなずいたりする、参加者の皆さんの反応がすごかったというのが今回の感想です。期待していたことではありましたが、熱心に質問し、何か気付きを得ていただいたことが何よりの成果。現場と消費者をつなぐことの重要性を改めて認識しました」

 また、長井さんのお話からは、企業が取り組むべきSDGsの方向性が示唆されているように思われます。

「担当部署だけで運営していても、広がりに限界があると感じていたため、今年はテーマごとに分科会的なチームを作り、社内副業制度を利用して、ボランティアメンバーを募りました。さまざまな部署の人間が集まることで、多角的に内容を考えることができ、内容を充実させることができたと思います。実際に、募集人数以上の応募があって、社員の熱意やSDGsへの意識の高まりを感じました。

 逆に言えば、このイベントの運営を通じて、SDGsを社内に啓発する、教育することができたとも言えます。若い世代の社員が参加することで、社内の空気も変わりますし、発信力のアップにもつながっているように思います」

 SDGsに取り組む企業は多いですが、SDGsを切り口に、社内教育やインナーブランディングを行う例はあまり見られないのではないでしょうか。SDGsに向けた一歩に必要なのは、何よりも心の変化、マインドセットであることを教えられた気がします。

地方が都市にアクセスする必要性

 生産者側にとっても、都市部でのこうしたイベントにはいつにない意味があったようでした。垣内さんは次のように話しています。

「講習やトークイベントといえば、狩猟者や処理施設の方の前でお話しすることが多くて、今回のようにSDGsをテーマにした、一般の方の前でというのは初めてでした。とても関心が高く、熱心であることが分かったし、関心はあってもジビエに触れる機会が少ないのだということもよく分かったように思います。

 やはり、都市の皆さんには地方の現状を知ってほしい。ジビエはそのためのツール。鳥獣被害の大きさや生態系が壊れていくさま、高齢化や過疎化、人口減少といった問題を、都市の人たちに知ってもらい、自分たちに何ができるかを考えてもらえたらと願っています。その意味で、都会と地方が交流するこのような機会は貴重です。美味しいものを食べれば、それが獲れるところへ行きたくなるでしょうし、地域との交流にもつながるのではないでしょうか。ぜひね、ジビエをブームで終わらせるのではなく、長くつながる関係性につなげていってほしいと思います」

 都市部でのイベントへの可能性を感じたのは藤木も同じ。

「今まで地方での講習が多かったし、SDGsでも中高生にお話する機会ばかりでしたので、今回のように、東京のど真ん中でジビエを召し上がっていたくというのは非常に新鮮でした。やはり消費地の人に理解してもらうこと、感じてもらうことが大事ですよね。今までは生産現場のほうに力点を置いていましたが、これからは受け入れる消費地にもやっていかないといけないと思いました。ジンギスカンの羊肉、イベリコ豚など、食肉はブームでの流行り廃りが大きいですが、それに一番振り回せるのは生産者です。ジビエがそのようにならないように、日本の食文化に定着させていくにはどうしたら良いか、これからは消費者も含め、それも考える必要があると感じています」

 冒頭に示したように、11月22日から12月5日まで、丸の内ハウスでジビエフェアが開催されます。お近くの方はぜひお立ち寄りください。