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ジビエブランド化推進、生産者と消費者をつなぐ

2023年03月01日

1月17日、大手食材輸入卸売事業者「アルカン」において、高級レストランシェフ向けの「国産ジビエ料理セミナー」が開催されました。

これは国産ジビエブランド推進コンソーシアムの事業の一つ。参加者はアルカンの顧客である高級ホテルや高級レストランの料理人、担当者等で、ジビエの取り扱いを検討してもらうことが狙いです。ジビエ協はジビエの魅力、衛生管理、解体処理、調理法などのレクチャーを担当し、参加者にジビエへの理解を深めてもらいました。また、より深いジビエの理解のため、コンソーシアムに参加する国産ジビエ認証取得施設の生産者も登壇し、捕獲を含めた国産ジビエの現状を語っていただいています。

冒頭挨拶で協会代表理事・藤木は、国産ジビエ認証制度が整備され、衛生的で安心して使えるジビエの供給体制が整ってきたと話し、「これからは、安心して美味しいジビエが、もっと流通していく体制を作りたい。『国産ジビエ』というブランドを確立することも重要だろう。今日の講習会を通して国産ジビエについて検討していただきたいし、良い意見、悪い意見、忌憚なくお寄せいただきたい」と呼びかけました。

講習は衛生管理、ジビエの栄養価、魅力等の座学、鹿の解体の講義、試食というフルスペック。試食は料理人が中心ということで、シンプルに塩だけで味付けして焼いたものを、イノシシはバラ、ロース、外モモ、内モモ、鹿はロース、外モモ、内モモの各部位で提供し、食べ比べてもらうというスタイル。他、九州の皮付きイノシシの煮込みや、鹿のカタ・スネ肉の煮込みポン酢といった、特徴のある料理も1品ずつ加え、ジビエならではのユニークさも感じてもらいました。

各施設からは、地域の捕獲状況や、施設での処理状況、そして、良いジビエを提供するために取り組んでいる工夫や施策についてもお話しいただきました。3施設とも国産ジビエではトップクラスの品質を誇り、市場の評価も高い。主催者は「生産者の声を聞くことで、ジビエをより身近に感じてもらうのが狙い」と話しており、参加者には貴重な経験となったようでした。

生産者として登壇したのは、長野県 信州富士見高原ファーム 戸井口氏(左上)、宮崎県 西米良村ジビエ処理加工施設・小佐井氏(右上)、鳥取県 わかさ29工房・河戸氏(左下)。会には、ジビエ振興に協力してくれるフレンチの巨匠“ムッシュ”・堀田氏(右下)も参加し、シェフにジビエ利用を訴え。

参加者がもっとも熱心に見ていたのはやはり解体処理講習。枝肉から部位ごとに切り分ける大バラシは、現在ではなかなか実際にやる機会もなければ、眼の前で見ることもほとんどありません。参加者からは「非常に勉強になった」「自分も部位ごとではなく、枝肉か半身で仕入れたい」という声が聞かれました。

参加者の反応と手応え

アルカンは高級食材をメインで扱う輸入商社であり、顧客も大手飲食・ホテルが目立ちます。そうした参加者が大半であり、「ジビエは扱っていた」「扱ったことがある」という声が多く、その一方で「国産を意識して使ったことはない」という声もあり、国産ジビエを理解する良い機会となったとも言えそうです。

アルカンの担当である鈴木氏は、この日の成果を「国産ジビエの魅力を知ってもらえた、第一歩となったのでは」と話します。

「おそらく、『猟師から直接買う』(施設を通さない旧来の仕入れ)ことが、違法であることを知らなかった人も多かったのでは。リーガルな部分で基準ができて、一定のレベルの製品がある程度まとまって扱えるようになった今なら、アルカンのような商社も扱えるし、飲食店にもサポートができると思う。32施設しかないという国産ジビエ認証施設のジビエは、非常に限定的で特別感があってブランドとして良いと思う。アルカンとしてのジビエの流通体制は、これから整備することになるが、良いスタートが切れたのではないかと感じています」

その一方で、ジビエ業界にこんな要望も。

「消費者目線で言わせてもらえれば、ジビエとは、シカ、イノシシだけではないと思う。それは料理人も同様で、アナグマやクマ、そして王道の野鳥など、幅広く包括的にジビエを扱ってもらえると、選択肢も増えて料理人も楽しめるのでは」

実際、多用なジビエを扱うことでシェアを拡大している事業者もいます。社会課題からのプロダクトアウトの発想ももちろん重要であり、必須のものではありますが、ジビエ振興が流通・販売といった川下の部分にも足を踏み入れた今、しっかりと検討すべき助言かもしれません。

イベントを主催したコンソーシアム事務局の潮氏は、今回のイベントは「手を繋ぐ場」であったと語ります。

「ジビエの消費拡大にはシェフ側にも心構えをしてもらう必要があります。生産者のリアルな生の声を聞くことで、人となりを知り、いわば契を交わす、握手する場にするのが狙い。ジビエの『安心・安全』は当たり前の時代になった今、これからは『安定』がキーワードになります。一足とびにゼロから100へと消費を拡大するのは難しい。まずは段階を踏んで安定した消費、流通を実現していくことが重要だと感じています」

 コンソーシアムが掲げる「ブランド化」とは、ハイメゾンのようなブランドのことではなく、「価値を持つこと」「価値を認めること」であるとも話しています。「生産者も消費側も価値を認め、高める努力をしていく必要」がある。そのためにはコミュニケーション、情報のやり取りなどが重要になるだろうとも話しています。

認証を取得した国産ジビエは、その安全性・品質が認められ大手外食や大手企業の社員食堂での利用が徐々に拡大しており、品薄傾向でもあります。国産ジビエ認証取得の増加が望まれるものではありますが、並行してさらなる市場拡大も必要です。施設の事業者の多くは中小事業者で、売れないものに投資はしにくいもの。市場側からすれば商品の供給加速を期待するが、これは卵が先か鶏が先かという議論で、需要と供給、両輪でのジビエ振興がこれからますます重要になるのではないでしょうか。