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ジビエは「包括的アプローチ」の時代に――アグロイノベーション2022 「鳥獣対策 ジビエ利活用展」

2022年11月02日

10月26~28日に東京ビックサイトで開催された「鳥獣対策・ジビエ利活用展」での講演・パネルディスカッションにお招きいただきました。

鳥獣対策・ジビエ利活用展は、「アグロイノベーション2022」など4つの農業関連の展示会のひとつとして開催されたもので、展示のほか講演、セミナーなども併催されています。

今回、弊協会代表理事の藤木および事務局長の鮎澤が登壇したのは、初日26日の講演・パネルディスカッション。この枠では鳥取県国府市で猟師を営む山本暁子さん、わかさ29工房(鳥取県若桜町)の河戸建樹さん、兵庫県立大学の山端直人教授、そして藤木がそれぞれの立場から鳥獣対策、ジビエの現状と課題を報告しました。

山本さんは猟師としての活動の詳細や、その苦労などを実体験を交えて紹介。報奨金などの制度のために「儲かっている」と思われがちな猟師ですが、実際は収益化が難しいこと、地域によっては猟友会や行政との関係に悩むなど、さまざまな苦労があることを語りました。

河戸さんのわかさ29工房は、シカ・イノシシ合わせて年間3000頭を処理しており、安定した経営ができています。講演では、狩猟者と協力体制を築き、搬入率を高めていることや、鳥取県版HACCPや国産ジビエ認証を取得したことで、外食産業での利用が拡大したことなどを紹介しました。


(写真)わかさ29工房、河戸さん

兵庫県立大学、自然・環境科学研究所の山端教授は、自身狩猟者であり、集落での実証実験を行いながら、効果的な防護・捕獲の手法の検討を続けています。山端教授は、適切な防護柵の設置と加害個体の捕獲が生息密度と被害の低下につながること、その中心となるのが集落の人々であり、「狩猟」「捕獲」に限定した活動ではなく包括的なアプローチが必要であることを指摘しています。

藤木からは、鳥獣被害防止特措法の改正によって、捕獲個体の利活用と衛生管理の高度化が国策として進められている現状を紹介し、これからは、販売を見据えた事業全体の「組み立て方」、そのための民間活力の利用が重要であると述べ、行政・民間が連携して取り組む必要性を訴えました。また、「役割分担は大事だが、丸投げは良くない」と指摘。横連携、分野横断的な体制や、多様なプレイヤーをつなぐ適切なコーディネータのような人材も重要になるとも指摘しました。

ジビエを政治主導した石破議員

後半は、自民党・「鳥獣食肉利活用推進議員連盟」(通称「ジビエ議連」)の会長の、石破茂衆議院議員が加わってのパネルディスカッションを行いました。

石破議員は、2014年施行の「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」(厚労省)、2018年施行の「国産ジビエ認証制度」(農林水産省)など、国のジビエの動きを実現に導いた立役者です。2014年5月、大手新聞社の記者の紹介を通じて藤木が石破議員に面談、ガイドライン等の必要性を訴えたところ、わずか半年後の11月にはガイドラインの制定につながっています。これによって、ジビエが政策の俎上に乗せられるようになり、その後大きく進展していくことになります。

冒頭、石破議員は次のように述べています。

「鳥獣被害やジビエの背後にあるもっとも大きな問題は、山の荒廃だろうと思う。獣が悪い、人間が悪い、といったことではなく、獣は山に帰ってもらいましょう、本来あるべき姿に戻しましょう、ということが大事なのだと思います。ジビエはそのための施策であり、本当に美味しいジビエは食べると感動します。にも関わらず、ジビエの消費量にばらつきがあるのはなぜか。国産ジビエ認証を制度化しても、取得施設がなかなか増えていかないのはなぜか。どこに問題があるか、答えを持っている方は、ぜひ教えてください」

「この問題は、急いで取り組まなければいけません。地域の農家が成り立たなくなりつつあります。およそ山村に人がいなくなって栄えた国はありません。地方に人と雇用と所得を取り戻すことこそが重要です。国としても自民党としても、一生懸命取り組みたいと思います」

パネルディスカッションでは、「有害鳥獣個体利用の川上から川下までのあるべき姿」をテーマに、退役者を含む自衛隊の活用、鳥獣管理士、ジビエのブランド化など、さまざまな議論がかわされました。

ジビエ関連のシーズ技術も

今年の「鳥獣対策・ジビエ利活用展」は、関連展示は6ブースと、企画コーナーのミニセミナーのみと、コロナ禍の影響とはいえ、かなり寂しい状況でした。

(写真)協会関係者では、鳥取県、鹿児島県出水市の大幸が出店

しかし、同会場内の「アグリビジネス創出フェア」のエリアで、興味深いジビエ関連の展示を見つけることができました。

アグリビジネス創出フェアは、大学など研究機関が食品、農業に関する最新の研究成果を発表する場であり、実用化されているものからシーズの基礎研究まで多様なレベルのものが展示されています。ジビエ関連では、岩手大学の「ジビエの迅速遺伝子検査機器の開発」、信州大学の「省電力・長距離通信により低コストで鳥獣対策とスマート農林業を実現」、鹿児島大学のリュウキュウイノシシの成分分析がありました。

興味深かったのは鹿児島大学のリュウキュウイノシシの研究。南西諸島の徳之島のリュウキュウイノシシが、抗疲労成分「バレニン」を多量に含むことを発見したというもので、本州のイノシシと比較しても抜群に多いことが分かったとしています。同大の大塚彰教授は、沖縄本島のリュウキュウイノシシとの比較、さらなる本州のイノシシとの比較が必要だとしつつも、徳之島特有の現象である可能性が高く、今後その理由などを探りたいとも話しています。

「バレニンを豊富に含むことが、徳之島のリュウキュウイノシシのブランド化に役立つのではないかとも考えている。際立ってバレニンが豊富な理由もまだ分からないため、今後も研究を継続したい」(大塚教授)

(写真)鹿児島大 農学部 大塚教授

 

ジビエ振興は次のステップに?

全体としてジビエ関連の展示は少なかったものの、石破茂議員が参加するパネルディスカッションには大勢の参加者が集まったように、鳥獣被害、ジビエ利活用が農業、地域活性化の大きなテーマであることに変わりはないようです。また、大学などの研究機関でもジビエ研究は地道に続けられており、産官学連携の可能性もまだまだありそうです。

今回、藤木が「全体的な取り組み、販売まで見据えた組み立て方が重要」と指摘したのと同じように、その他の鳥獣被害・ジビエ関連のセミナーでも、「包括的アプローチ」「集落全体での取り組み」の重要性が指摘されており、鳥獣被害、ジビエ利活用が、また新たな視点で取り組まれるようになっていることを感じさせられました。